1995年度
◎4月7日(金)日比野 剛士(早稲田大学)
「超楕円的なX_0(N)のあるlocal parametersとelliptic j-function の関係について」
  レベル N のモジュラー曲線 X_0(N) について、その関数体は Q(X_0(N))=
  Q(j,j_N)と書ける。ここで、j=j(z)はj-関数でj_N=j(Nz)である。一方、
  X_0(N)が種数2以上で超楕円的な場合には、村林氏によって、より係数や
  次数の小さい関係式をもつパラメター x,y を用いて、Q(X_0(N))=Q(x,y),
  y^2=f(x) と書けることが知られている。この講演では、種数が2以上の
  超楕円的な X_0(N) について、これらのパラメター x,y を用いて、j-関数
  を表示するという問題について話され、数個の例外を除き成功したことが
  報告された(数個の」例外も近いうちに解決するだろう)。また、種数が0
  の場合には、同様の問題がFrikeによって解決されていることも注意された。

◎4月14日(金)角皆 宏(早稲田大学)
「QM-curvesの佐藤-Tate予想について」
  まず始めに、QM-curveの位置付けと楕円曲線版の佐藤-Tate予想について簡単な
  説明をし、高次元のアーベル多様体、特に、QM-curveへのこの予想の拡張が、
  その多様体に付随する l進表現のFrobenius写像の固有値に注目することによっ
  て記述可能であることを紹介し、橋本-村林によって具体的に定義方程式が与え
  られているQM-curveについて(実際には少し都合の良い形に変形をして)、この
  予想についての検証結果が報告された。検証にはいくつかの興味深い仮定がある
  が、その検証結果はいずれも予想を裏付けていた。これらはsimpleな場合を扱っ
  ているが、そうでない場合には全く違った振舞いをすることも実験結果から分か
  り、さらに予想を正当化していた。また、この予想はCMを持つアーベル多様体で
  は解決されていることも注意された。以上は代数体上の話しであるが、有限体上
  の一変数代数関数体上の場合には、吉田氏によって、non-CMな楕円曲線や
  QM-surfaceについてもこの予想が解決されていることが話された。

●4月21日(金)【談話会】
講師:青木 昇 (立教大学)
題目:虚数乗法を持つアーベル多様体の等分点について
  代数体k上の定義されたアーベル多様体AがCM体KでCMを持つとし、
  2d=[K:Q]、cをKからEnd(A)@Qへの埋め込みとする。ここで、@は
  テンソル積を表す。更に、Kの部分体Lに対して、k_Lで(A,c(L))の
  定義体、K^+でKの最大実部分体を表す。この講演では、特に、
    (1) k_Kとk_{K^+}が一致しない。
    (2) c(K)はEnd(A)@Qにおいてkの絶対ガロア群の作用で安定。
  の2つの条件の下で、AのMordell-Weil群のねじれ部分A(K^+)_tor
  やその部分群の大きさの評価について話した。主な結果を大雑把!に
  言えば、A(K^+)_torに含まれる位数最大の巡回群の大きさはk_Kに
  含まれる一の冪根の個数で押えられ、かつ、A(K^+)_torの位数は
  その一の冪根の個数のd乗で押えられること、更に条件を加えること
  によって、構造的にも位数が一の冪根の巡回群のd個の直和の部分群
  となることが話された。また、Aがsimpleの場合、OlsonやGross-
  Rohrlishで扱われた場合などは上の条件(1)と(2)が満たされている
  こと、ここで話された結果はある意味でbest possibleであることが
  注意された。

◎4月28日(金)加川 貴章(早稲田大学)
「elliptic curveのcanonical heightの計算 -G.T.M.151 第6章の紹介-」
  主にSilvermanのG.T.M.151「Advanced topicd in the Arithmetic of
  Elliptic curves」の第6章「local height function」の紹介をした。
  この他に、Cremonaの「Algorithms for Modular Elliptic Curves」の
  表でミスがあることが注意された。詳しくは、表4のL^{(r)}(1)の値で、
  真の値/r!の値が載っているとの報告があった。従って、r>1の場合
  (実際の表の範囲ではr=2の場合しか現れない)には、値の解釈を変える
  必要があるとの話しである。

◎5月19日(金)長谷川 雄之(早稲田大学)
「On Type Numbers of Split Orders of Definite Quaternion Algebras」
  BをQ上定義されたdefinite quaternion algebraとし、qをその判別式、
  Nをqと素な自然数とする。この時、Bの(q,N)型のsplit orderの同型類
  の個数をBのtype numberと呼び、T_{q,N}で表す。このT_{q,N}は有限
  の値をとることがわかっており、20年ほど前からそのexplicitな公式
  が知られている。これに対して、特にNがsquare-freeの場合には、
  橋本氏によって、T_{q,N}を\Gamma_0(qN)に関する重さ2のcusp form
  の張る空間S_2(qN)のある部分空間の次元を用いて表す新しい公式が得
  られている。この講演では、この橋本氏によるT_{q,N}の新公式を更に
  一般化し、すべてのNに対してS_2(qN)のある部分空間の次元を用いた
  T_{q,N}の明示的な公式が与えられた。証明には、主にMobiusの反転公
  式やtrace formulaなどが用いられた。

◎5月26日(金)志村 真帆呂(早稲田大学)
「Modular curvesのsupersingular points」
  Rを完備離散付値環、Kをその商体(char(K)=0)、kをその剰余体(char(k)=p>0)
  とする。この時、(E,D)/R (ここで、Eはk上でsupersingularな楕円曲線,
  Dは位数p^nのEの巡回群とする)が存在するための条件が、Rの分岐指数を用い
  て与えられている(百瀬文之氏の結果)。前回はこれをformal groupを用い
  て示したが、今回はCrossing Theorem (at supersingular point)を用いた別
  証明を紹介した。

◎6月2日(金)福田 隆(日本大学)
「相対単数群とGreenberg予想」
  kを実二次体、pを奇素数とする時、その円分的Z_p拡大の第n段部分体の
  (Makiの意味での)相対単数群E_{n,R}がMinkowskiタイプの単数を持つこ
  と、また、その部分群のある商群V_nの持ついくつかの性質が示された。
  更に、この応用として、Greenberg予想が不成立になることと、すべて
  のnに対して商群V_nが巡回群になることが同値(pが分解する場合にはほ
  ぼ同値)であることが紹介され、p=3でそれが惰性している場合に、対応
  するマイナスのlambda不変量が2以上でGreenberg予想が成立する新しい
  実例を紹介した。

◎6月9日(金)西田 賢一(埼玉大学)
「The minimal height of Jacobian fibrations on K3 surface」
  講演の内容:K3曲面上にある楕円曲面の構造とlattice(整係数二次
  形式)の対応(cf. Shioda: On the Mordell-Weil Lattices)について
  話した後、Mordell-Weil latticeの最小norm問題についてを話す予定。

◎6月16日(金)Maurice Arrigoni(都立大学)
「Demuskin Groups Arising in Restricted Ramification Theory」
  Summary : Let k be an algebraic number field, and let G=Gal(K/k),
  where K is the maximal pro-p-extension of k, unramified outside
  a finite set of places of k, containing those over the prime
  number p. We study the cases when G is a Demuskin group, and also
  the location of the decomposition groups inside G.

◎6月23日(金)中里 肇(東京工業高等専門学校)
「Heegner点について」
 志村理論によって、重さ 2, level N の newform f(z) に対応して、
 アーベル多様体 A/Q と Q-有理射 \varphi:X_0(N)-->A が存在する。
 f(z) は "虚数乗法" を持たないと仮定する。 虚2次体 K に対して、
 K_1 で K の Hilbert 類体を表す。ある条件をみたす虚2次体 K に
 対して、K から定まる Heegner 点 x∈X_0(N)(K_1) の像
 y=\varphi(x)∈A(K_1) は、位数が無限大になることを話す。

◎6月30日(金)橋本 喜一朗(早稲田大学)
「Poncelet の定理と種数 2 の曲線の代数対応」
  C を代数体 k 上の種数2の曲線, X \subset C x C を C 上の代数
  対応とする。X は C のjacobianの自己準同型 \phi(X) を引き起す。
  \phi(X) が判別式5,8の実乗法を定める様な X を具体的に記述する
  事を問題とする。この問題はJ.F.Mestre氏によって既に論じられて
  いるが, 筆者には, 氏の論文中言及された「Poncelet の定理」との
  関連が数年間わからなかった。最近ようやくこの点が解明(?)出来た
  のでその報告をします。応用として, QM(四元数乗法)の定義体の問
  題にも触れる予定。

◎7月7日(金)小松 啓一(東京農工大)
「Construction of normal basis by special values
  of Hilbert modular function」
  ある種のCM体のアーベル拡大体の正規底をHilbert modular
  functionの特殊値で構成する話しをする。

◎7月14日(金)山形 周二(東京電機大学)
「p進体の拡大に付随するガロア表現についての注意」
  剰余体が代数閉体である局所体の有限次ガロア拡大は
  それに付随するガロア表現で決定されることがSen,
  Destrempesによって証明されている。この結果の有限
  次拡大への一般化を述べる。

◎9月22日(金)赤堀 庸子
「DedekindのGalois講義」
  ドイツの大学で初めてガロア理論の講義をしたのは
  デデキントであると言われている。そのガロア理論を
  読むことにより、デデキントがガロアの論文をどのよ
  うに読み解いたかを見る。

◎10月6日(金)寺井 伸浩(足利工業大学)
「The Diophantine equation a^x+b^y=c^z」
  a,b,c,p,q,rをa^p + b^q=c^r (p,q,r \geq 2)を満たす固定され
  た正の整数とする。そのとき不定方程式a^x +b^y = c^zは唯一
  つの正の整数解(x,y,z)=(p,q,r)を持つ、という予想を考える。
  p=2,q=2,r=奇素数のとき、この問題をThue方程式に帰着し、
  cまたはrが(十分)大きいならば上の予想が成り立つことを
  Baker理論を用いて示す。

◎10月13日(金)村林 直樹(山形大学)
「J_0(N) の 2 次元 simple factor について」
  Xiang-dong Wang 氏の論文 :
  2-dimensional simple factor of J_0(N),
  Manuscripta Math. 87, 179-197 (1995) の解説を行う。
  Gamma_0(N) に関する newform f が与えられた時、
  志村理論により J_0(N) の Q-simple factor A_f が対応する。
  Wang 氏は A_f の周期行列を計算するアルゴリズムを与えている。

◎10月20日(金)河本 史紀(学習院大学)
「有限次不分岐アーベル拡大のnormal integral basisについて」
  J.Brinkhuis, Manuscripta Math.75(1992),pp.333-347と
  Acta Arithmetica LXIX(1995), pp.1-9の紹介をする。

◎10月27日(金)日比野 剛士(早稲田大学)
「X_0(p)上の点に対応する楕円曲線のp-isogenyについて」
  前回は、X_0(N)が超楕円的な場合、j を hyperelliptic
  parameters x,y で表したことを発表した。
  今回は、Noam D. Elkies 氏の preprint 「EXPLICIT
  ISOGENIES」を紹介し、そのアルゴリズムを前回の結果に適用
  する展望も述べたい。

● 11月10日(金)【談話会】
講師:山村 健(防衛大学)
題目:不分岐$A_n$-拡大を持つ類数1の実2次体
講演内容:表題の体の分布について、代数体の判別式の分布、
  および、代数体の類群の分布という観点から予想を提出し、
  それに対する数値結果について述べる。Cohen-Lenstra
  heuristics や2次体上の不分岐拡大一般についても述べる
  予定である。

◎11月17日(金)佐藤 篤(東北大学)
「Kummer 曲面上の有理点の分布について」
  有限次代数体 k 上定義された, ある種のKummer曲面 S 上の
  有理曲線の無限族を具体的に構成する方法を述べた上で,
  このような有理曲線の上にあるような S の k-有理点の分布を
  評価する.

◎11月24日(金)尾崎 学(早稲田大学)
「Kummer's lemma for Z_p-extensions over totally real number fields」
  pを奇素数, Kを総実代数体とする. いま(K,p)に対するLeopoldt
  予想が成立していると仮定すると, あるKのp上の素イデアルたち
  の積 Mで次を満たすものが存在する:
  「Mを法として1と合同となるKの単数はあるKの単数のp乗である.」
  今回の講演では、KおよびKのZ_p-拡大の各layerに対して
  このMを総実代数体のp進L函数を用いて与える. 特にKを実p分体
  としてみると, L.C.Washingtonの定理(J.of Number Theory 40,
  165-173(1992))よりも良い結果が得られる.
◎12月1日(金) 角皆 宏(早稲田大学)
「自由Lie環の計算programの試み」
  外ガロア表現の研究から必要となった自由Lie環の計算に
  ついて話した。はじめに、どのようにして外ガロア表現から
  Lie環が現れるか、及び、Hall基底を用いた自由Lie環の元の
  標準的な表示について紹介し、その後、それを実現する為の
  データ構造や実際のライブラリ作成のアイデアについて話した。
 (演者注:現在なお改良中)

●12月8日(金)【談話会】
講師:鈴木 浩志 (名古屋大学)
題目:Gal(K/Q)-不変なGL_n(O_K)の有限部分群について
時間:15:30~16:30
講演内容:K を有理数体 Q 上Galoisな代数体とするとき、
  Galois群 Gal(K/Q) の遖・蓬 の
  有限部分群 H は A-type か?という問題を考える。
  Gal(K/Q) がべき零のときや n=2 の時は正しいのだが、
  n=3 の時はまだよくわからない。

◎1月12日(金) 長谷川雄之(早稲田大学)
「Hyperelliptic Modular Curves X_0^*(N)」
  今回のテーマは,超楕円曲線となる X_0^*(N) の分類についてである.
  8|N または 9||N の場合には,X_0^*(N) は 1 次分数変換より生ずる
  involution をもつので,いくつかのX_0^*(N) については
  これを手がかりにその超楕円性を判定することができる.
  また,X_0(N) により支配される種数 2 の曲線,これと最近の
  Wang 氏の論文 (Manuscripta Math.) との関連についても
  触れる予定である.

◎1月19日(金) 志村 真帆呂(早稲田大学)
「Cyclic subgroups of one parameter formal groups and
  its applications」
  pを素数、K/Q_pを有限次拡大、OをKの整数環、kをその剰余体、
  Q_p^{ur}をQ_pの最大不分岐拡大, L/KQ_p^{ur}を有限次拡大で,
  eをその拡大次数、Lの整数環をR、MをRの極大イデアルとする。
  このとき、FをR上の一変数O-形式群、VをR上のFの巡回部分群
  で位数p^rとする。また、FmodMの高さを2とするとき、eの下限
  をpとrを用いて与えた。さらに、X_0^{+}(p^r)の有理点に関する
  応用を話す予定である。

◎1月26日(金) 加川 貴章(早稲田大学)
「実二次体上定義された至る所good reductionを持つ楕円曲線
  について」
  実二次体K上定義され、K上至る所good reductionを持つ楕円曲
  線は興味深い対象である(Shimura's elliptic curveの周辺等)。
  にも関わらず、与えられた実二次体Kに対し、「K上至る所good
  reductionを持つ楕円曲線はこれが全てである」という形の結
  果は(知りうる限り)無いようである。
  現在、K=Q(√37)に対し、上の問題を解決すべく努力中なので、
  その過程を話す予定である。

◎2月2日(金) 木村 巌 (筑波大学)
「代数体の2次拡大の相対3類数とCM-体の相対岩澤不変量について」
  代数体を一つ固定し、その2次拡大のうち、類数の3でのdivisibilityと、
  素点の分岐の様子を指定した無限族の密度を与える。応用として、
  そのような2次拡大 (これは素点の指定の仕方によって CM-体や総実
  代数体となる)で、basic岩澤Z_3-拡大の岩澤不変量が自明に消える
  ものの密度を与える。

●2月9日(金)【談話会】
講師:森田 康夫(東北大学)
題目:アーベル曲面の2次元コホモロジーについて
時間:15:30~16:30
講演内容:アーベル多様体の1次元コホモロジーのガロア加群
  としての性質は、かなり良く研究されているが、2次元以上
  のコホモロジーは余り研究されていない。アーベル多様体の
  2次元コホモロジーは、(1次元のコホモロジーの外積では
  あるが)クンマー曲面との関係などより、かなり豊かな内容
  を含むものと思われる。ここではアーベル曲面の2次元コホ
  モロジーに関する Tate の予想を取り上げ、1次元の場合と
  の違いを調べる。

●3月1日(金)【談話会】
講師:Rene' Schoof (University of Amsterda)
題目:Computing Iwasawa modules of real quadratic fields.
時間:15:30~16:30